自由度の高い不動産物件を提案 株式会社PAX 代表取締役 村井隆之さん インタビュー

2021年11月19日

CW/CDのメンバーが、どんなライフスタイルを送っているのか気になる人にインタビューし、その声をお届けする”VOICE”。「毎日違う生活をしている人でも、同じ『Tシャツ』を共有しているという共通点を持つことで、きっと世界が平和になるであろう」という想いのもと、CW/CDコミュニティを起点に、日々生活の中でのインスピレーションや、面白い繋がりが生まれることを願っています。

記念すべき第一回目は、不動産のプロデュースや設計・リノベーション事業、賃貸仲介を手掛ける株式会社PAX 代表取締役の村井隆之さん。「自由度の高い改装ができる物件」に着目し、改装可能な物件を検索できるサイト「DIYP」の運営、そしてレンタルスペースやシェアオフィス事業など、一見、普通に探してもなかなか見つからないようなユニークな建物や不動産にまつわる様々な事業を行っています。

CW/CDのデザイナー・上山と友人でもある村井さんに、初回からロングインタビューとなった今回、普段の生活スタイルや仕事について、事業のインスピレーションとなった旅の話、今興味のあることについて伺いました。


株式会社 PAX ホームページ

普段の生活スタイルについて教えてください。どんな一週間を過ごしていますか?

全然面白い感じじゃないよ(笑)うちの会社はコロナ禍前からほぼリモートワークです。毎週月曜日の午前中に会社で打ち合わせをしていて、月に数回は会計士さんと会ったり銀行へ行きますが、それ以外は家やいくつかある作業場所で仕事してます。クライアントさんとの打ち合わせは電話やメールが多いですね。

移動は車です。ドライブしながら新興住宅地を見てまわったり、あとは六本木ヒルズにいることも多いかな。52階にある展望台が好きで、飲み物とPC持って行って作業したりしてます。すごい怪しいと思う...(笑) 不動産業って、地面上からじゃなくてやっぱりメタ的に見たいというか。東京って見晴らしがいいところから街をみるのが面白いですよね。建物ひとつだけを考えるんじゃなくて、街がこうなったらいいなとか、客観的にそこに住む人の暮らしぶりを想像してみたり、そんな想像力が仕事になったりすると思ってます。うちのスタッフにもよく話してますよ、自分のロマンチック具合に恐れを成しながら(笑)

普段、どんな服装で仕事をしていますか?

普段は基本的に白のTシャツにパンツとスニーカーです。シャツやジャケットを着ます。洋服は、大体友達がつくった服を展示会や事務所で購入することがほとんどです。

CW/CD Tシャツ ホワイト

CW/CD のTシャツを着た感想を教えてください。

これ褒めるしかないよね!(笑)「着心地良いです」ってみんな言うと思うんだけど...。最近のTシャツって大抵着心地がいいじゃない?だけど俺が着てたTシャツはどうやら着心地が良くないものを着ていたらしくて。CW/CDのは着心地がいいんだよね、触って思った。あとは、最初薄いと思ったけど、着ると意外と大丈夫ですね。1枚で全然着れる。もともとタグがないものが好きなので、ヘインズなどのパックTシャツを安いから着てましたが、CW/CDは外側にタグがあるから気にならないです。形は、BOX型で横幅があるのでビジネスマン向けにはどうなのかな?と思いましたが、上にシャツを着てみたら普通に着れました。

CW/CD Tシャツ ホワイト

村井さんのお仕事について聞かせてください。不動産業界に入ったきっかけは?

大学生(早稲田大学・教育学部)の頃、卒業したら世界一周旅行をしたいと思って就活せずにお金を貯めてたんです。4年生の時にたまたま聴きに行った講演会で、黒崎輝男さん(イデー(IDÉE)創始者)が講演に来られてたんですが、その時隣に座ってた知らないおじさんに話しかけられて、色々話してたら講演が終わって黒崎さんを紹介してくれたんです。黒崎さんと色々な話をするうちに世界一周がしょぼく思えてきちゃって。「君みたいな人は働いたほうがいいよ」とアドバイスされ、卒業したらIDÉEの子会社のR-project(当時IDÉEの不動産リノベーション部門)で働くことになりました。

導かれたような出会いがあったんですね。

学生時代は旅行ばかりしていたので、不動産って全然興味がなかったんです。でも、建築がずっと好きでした。旅行中にスペインでガウディ建築を見て回ったり、ヘルツォーク&ド・ムーロンって建築家が手掛けたTate Modernという国立現代美術館がロンドンにあるんですが、そこは元火力発電所を美術館にコンバージョンしていて、そのダイナミズムやストーリーが面白いなと思っていました。「建物の用途が変わったりとか、そういうのも不動産領域なんだよ」って会社に入ってから教えてもらって。


(左)Tate Modern イギリス、ロンドンのテムズ川畔にある国立の近現代美術館
(右)2003年、同Tate Modernでアーティストのオラファー・エリアソンが発表した作品「ウェザー・プロジェクト」

実際に働いてみて、仕事はいかがでしたか?

会社で最初に仕事したのが、池尻にある「世田谷ものづくり学校」という、廃校になった中学校校舎を改装してクリエイターに貸すというプロジェクトでした。最初は正直よくわからなかったんですが、例えば、ニューヨークにあるMOMA PS1(コンテンポラリーアートを扱ったりアートブックフェアなども開催しているMOMAの分所)みたいなイメージと言われて。プロジェクトが進むなかで、反対する人が出てきたり、使える場所が使えなくなったりと色々なことがあり、仕事の難しさを感じたり、もっとこうなったらいいなということも自分で色々と考えたりしました。

会社では他にも、倉庫や工場を家やマンションにしたり、面白いデベロップメントを色々経験しました。それまで普通の不動産には全然興味を持てなかったけれど、当時のIDÉEはマーク・ニューソン(オーストラリア出身のプロダクトデザイナー)がオフィスに普通にいたりとか「クリエイティブ系」(って言っちゃうとカッコ悪いんだけど......)そんな雰囲気だったので、その文脈で不動産を見直すと確かにポテンシャルがあるなと思ったんです。

いわゆる「普通の不動産」ではなかなかできない経験ですね。

会社勤めをしていた当時、自分で家賃払いたくないってオーナーに交渉したりしてタダで物件に住んだりしてたんです。ニューオータニ近くの70平米のマンションに住んでたら友達がきたときに「(改装とか)そんなんやっていいの?俺もそういうところ住みたい!」って言われて。それでアーティストの友人に改装してもいい家をどうにか探して紹介したりしてました。

学生の頃、旅行中ニューヨークのクラブで知り合った奴の家に転がり込んだりすると、変な面白い物件に住んでる人が沢山いたんですよね...だだっ広いところにドラムセットをバーンと置いてたり、風呂やトイレをめちゃくちゃに作って置いてたり(笑)2000年初期でしたが、ブルックリンや、LAのアート・ディストリクトとかもまだ面白い場所が残ってた時代でした。そういう面白いものをみたり、仕事で色んな経験をするなかで色んなことを考えました。会社には1年の約束で入ったんですが、結局3年が経っていて、ある日、朝起きて急にやめようと思って会社を辞めたんです。28歳、29歳の頃でした。それから、ニューヨークに3ヶ月行きました。

急な展開ですね!

ニューヨークではマンハッタンで一番安い英語学校へ(値切って)入って、ホテル暮らしをしながら家を探していたところ、掲示板サイトで又貸しの物件で馬小屋を改装したところに住んでる変な人を見つけて(笑)ブルックリンまで会いに行くと、家は結構大きくて、外観は頑丈な煉瓦造りの2階建て、上に2部屋下に2部屋を4人でシェアしてた。結局その家に3ヶ月住むことになったんですが、家も変わってるし、一緒に住んでた奴等も自分と同じ歳の面白い人たちだったので楽しかったです。彼らは音楽や演劇をやってたので、その友達たちが集まると毎週パーティしたり、知り合う人もアーティストが多くて。なかには古いビルに家賃も払わずに勝手に住んでる奴もいたり…そういう自由さがすごく面白かったんですよね。

日本の家事情からすると衝撃的な体験ですね。帰国した後はどうしたんですか?

日本に帰ってきたら、すごく普通だな〜と思って。再就職する気がなかったので、仕事しなきゃと考えていた時に、昔の知り合いで代々木上原に土地を買って古民家を壊してマンションにしようとしてる人から相談があったんです。ボロボロの古民家を月40万円以上で貸し出さなきゃいけないという話だった。実際に建物を見に行ってみると悪くない。でも40万はしないなと思った。レストランがいいかなと思ったけど、それまで飲食店の企画やプロデュースをやったことがなかったんです。でも無理矢理「ここをレストランにします」って言いました。

とりあえず建築と料理だなと思って、IDÉE時代に出会った、感覚を信頼できる友人たちに連絡してレストランにしたいと相談したら、みんな「いいんじゃない?」って言ってくれて。うちの実家が造園会社をやってるので、庭はこんな感じにしたいとか色々相談しながら想像を膨らませました。オーナーも友人に相談してやることに決まったので、「できたら渡すわ〜」って言って、レストラン「入 iri」をつくりました。


iri

その後も、渋谷にビル一棟持ってるオーナーさんから何かやってくれって相談を受けて。そこは3階から10階までもともと公団だったんですが、全部解体して改装自由な事務所をつくってクリエイターを集めて貸し出すってことをやりました。ニューヨークに行った時にいいなと思ってたのが、角地にあるカフェ。その渋谷のビルも角地にあったので、友人と一緒に「ON THE CORNER」 を作ったんです。いまもう無くなっちゃいましたけど…。他にもファッションブランドのデザイナーさんに事務所やスタジオを紹介したり、そうやって仕事をしてるうちに結構お金が貯まったんですよね。それを持ってアメリカ横断に行こうと思って。そのころ30歳くらいだったかな。

またアメリカに行ったんですね!(笑)

サンフランシスコからニューヨークまで、アメリカ横断一人旅。実は子供の頃から「アメリカ横断ウルトラクイズ」っていうクイズ番組で優勝するのが夢だったんです。そのクイズの勉強で得た知識が脳裏に焼きついていて、グランドキャニオン、ヨセミテ、ホワイトサウンズとか、とにかく行きたかった場所を片っ端から周りながら1ヶ月過ごしました。今思えば人生で一番自由な旅でしたね。当時iPadが出始めの頃だったので、GPSで地図を見ながら良いホテルやモーテルを転々としながら旅をして。大草原の好きなところで脇道に入ってぼーっとしたり。デスバレーっていう夜は全く音がない砂漠で、耳がキーンとなるくらい静かな場所で過ごしたり….


アメリカ横断の一人旅。グランドキャニオンにて

いい旅ですね!コロナ以降移動が難しくなってしまったので、自由に旅ができた時代のありがたみを感じます...

学生時代からだと、インド、タイ、ネパール、スペイン、フランス、イギリス、ジャマイカ、アメリカ…やることなかったから色々行きました。母親から電話かかってくると「日本にいるの?」っていつも言われてましたよ。今、すごく旅行行きたいですね…!

旅ではいつも、ロンドン、ニューヨーク、LAなんかの都市に住んでる同年代のアーティストやクリエイターたちのライフスタイルや暮らし方が気になってました。ファッション、音楽、食とか文化は色々ありますが、僕はどちらかというと「建物」や「家」が気になっていて。そうすると不動産の領域になってくるんですよね。

なるほど。旅で出会った面白い建物や家、人々のライフスタイルが今の事業に繋がるのですね。

アメリカ横断の旅から帰ってきたら仕事がゼロ。やばい…仕事がない…と焦りながらも、以前面白い物件を紹介していたこともあって、これは結構需要があるし自分が考えてることとリンクするなと思って、改装してもいい家や事務所だけを紹介するサイト「DIYP」をオープンしました。


学生時代、インドを旅した時の村井さん

日本で改装して住める家を探すこと自体、当時でもハードルが高かったのではないでしょうか?

不動産に行って聞いても、そんな家ないって言われるんですよね。「DIYP」のサイトをつくって間もない頃、電話やメールで色んなところに事業を紹介しまくってたんですが、NHKが取材してくれて、20分番組をつくってくれたんです。当時、日本では空き家の問題もあったので「改装できる家」に注目してくれて。そしたら朝日新聞や日経新聞も全国版の一面で扱ってくれたり、朝の情報番組でも各局取材してくれたりして。それを見た日本中のオーナーさんから連絡が来るようになりました。日本で物件はないと思ったけど、不動産屋さんが止めてただけで、「何やってもいいよ」ってオーナーさんは、実はいっぱいいたんですよね。

空き家問題でも、大学から先生が来てヒアリングしてくれたりしました。それまではオーナーが直して貸そうとすると改装費などでお金もかかるし家賃が下がることも原因で、空き家がなかなか解消されない。でも入居者が改装して貸すことができれば空き家減少になるかもしれないということで、そのころ国土交通省が指針を出したんですが、国土交通省のプロジェクトを手伝ったりもしました。

メディア効果もあり、広がったんですね。お客さんはどんな人たちですか?

物件が増えるようになってもお客さんは変わらず、建築家やフォトグラファー、デザイナー、アーティスト、いわゆるクリエイター、アーティスト、ファッション系の人が多いです。いまはサイトをメインでやりながら、コンサル業と持っている物件をレンタルスペースとして貸し出したりしてます。

ここ5年くらいで、リノベーションした店舗や宿も増えたように思います。

地方は特にそうですね。過去には銭湯丸ごと一棟借りたりもしましたが、面白い物件って世の中に実はたくさんあるんです。だけどリーチがうまくないなと個人的に思っていて......。不動産って簡単にお金になるような普通の家やマンション売ろうになっちゃうじゃないですか。だから古民家や蔵を貸し出そうとか、工場に住んでもいいですよとか、まずないですよね。そういうのがいいなと。


「DIYP」

村井さんが最近一番興味のあることは何ですか?

質問の趣旨に合うかわからないですが......最近、歴史の勉強を結構してます。
僕たちの世代って戦争を体験していないので、人が生き死にする場面はあまり身近でないと思うのですが、コロナ禍で今が一番この国に住んでいて死を近く感じるというか......。激動の時代に人が沢山死んだり、疫病が流行った時に人類で何が起きているか、例えば━17世紀のロンドンでペストが大流行したときに、大学が閉鎖されたことで故郷に戻って自由な思考時間を得たニュートンが万有引力の法則を発見した。大きな変化によって、様々な分野での才能が開花した━というような流れなど、そういう歴史的な視点でも物事を考えるようになりました。友達ともパンデミック後についてよく話しますが、みんなそれぞれこのコロナ禍で色んなことを見つめ直して、やりたかったこと、新しいことにトライする準備を始めている。それで自分は本当に何がやりたいんだろうって考えた時に、答えがわからなくて(笑)一番興味あるのは、どういう答えを出すかな、っていうことですかね。

将来的にやりたいことはありますか?

建物と人との関係性や空間に興味があるので、デベロップメントやホテルをやりたいと以前から思ってます。日本によくあるマンションではなくて、例えば、LA辺りにあるマンションの造りが好きなのですが、天井高が4~6mあってすごく部屋が広いとか、プールやジムがあったり、入り口にフリーのコーヒースタンドがあるとか。日本では容積率などボリュームがどうしても決まってしまいますが、既にあるものを作ってもしょうがないんじゃないかと思って。

あとホテルのほうは、僕は今までホテルにだけお金を使ってきた人生みたいなところがあって(笑)お金がない若い頃から良いホテルにはたくさん泊まってきました(笑)僕たちの世代って、ホテリエってすごく格好良くて憧れる存在。ハリウッドの「シャトー・マーモント」や「スタンダードホテル」の創業者であるアンドレ・バラス(Andre Balazs)や、ニューヨークの「バワリーホテル(The Bowery Hotel)」のオーナー、ショーン・マクファーソン(Sean MacPherson)とか...。いつか挑戦したいと思ってます。理想は...中途半端に大きくて本当にかっこいい建物で、いわゆる「ただ綺麗」っていうのではなくて、友達同士でクリエイティブなものをつくったり、デザインや建築、飲食、色んなカルチャーがミックスしながら、ちゃんと伝統的なものも残っていく......できればそれが100年続くような、そういうホテルをつくれたら面白いですよね。ガス・ヴァン・サント監督の映画「ドラッグストア・カウボーイ」(1989年)の最後に主人公が泊まってるホテルがあるんですが、ポートランドに実在したそのホテルは、後に改装してACE HOTELになったとか。そんな風に惹きつけるストーリーのある感じが腑に落ちて。嘘のないクリエイティブ感のある場所を、東京にもつくれたらと思ってます。ハードとソフト両方に興味があるので、いつかTate Modernのような大きい規模のものもやれたらいいですね。